ナルコレプシーとは
ナルコレプシーとは、起きている時間帯に自分で制御できないほどの強い眠気に襲われる睡眠障害です。眠気の他に、突然の筋力低下も伴います。
その他見られる症状には、睡眠麻痺、鮮明な夢、入眠時や覚醒時に見る幻覚なども挙げられます。
ナルコレプシー発症の確率は、米国、欧州、日本において2,000人に一人の割合です。
ナルコレプシーの原因は、未だ解明されていません。ナルコレプシーの患者には、一群の遺伝子を持つケースも見られますが、根本的な原因は遺伝子にはないとされています。
現在の研究では、環境的な要因がナルコレプシーの発症にもっとも関連しているという説が有力です。
ナルコレプシーの人は、日中に良く寝ます。したがって、日常生活に支障をきたし、交通事故に遭遇するリスクも高くなります。ナルコレプシーは治療しなければ一生続く疾患ですが、余命に直接影響はありません。
ナルコレプシーの発症であらわれる筋力低下、睡眠麻痺、幻覚の症状は、レム睡眠時に起きる筋緊張の低下、麻痺、鮮明な夢と似ています。
睡眠障害には他にも種類があります。睡眠障害の種類については下記のコラムでもまとめていますので、一度チェックしてみてください。
ナルコレプシーの症状
ナルコレプシーの人によく見られる特徴的な症状を、6つピックアップしました。
以下に、それぞれの症状を紹介します。
- 1. 日中の強い眠気
- 2. 情動脱力発作
- 3. 睡眠麻痺
- 4. 幻覚
- 5. 覚醒と夢による睡眠障害
- 6. 合併症
日中の強い眠気
日中の強い眠気はナルコレプシーの代表的な症状です。夜や昼間にたくさん寝たからといって、日中の強い眠気が軽減されることはありません。
多くの人は、時間や状況に関係なく訪れるコントロール不可能な睡眠発作に襲われます。何があっても寝ないぞ!と息巻いていても、強烈な眠気にあらがう事はできません。数分以内には眠ってしまいます。
睡眠発作は、1日に繰り返し起きるケースもあれば、2〜3回程度で収まる可能性もあります。1回の発作はたいてい2〜3分以下で収まりますが、まれに数時間続くことも。
目覚めは通常の睡眠と同じく、すぐに目覚め、頭はすっきりします。しかし、その後数分もしないうちにまた眠りに落ちてしまうケースも。
睡眠発作が起きやすいのは、退屈な会議や、見通しがよく単調な道が続く高速道路での長時間運転です。まれに、食事中や会話中、何かを書いている時にも発作がおこることもあります。
日本昔話に三年寝太郎という話がありますが、モデルとなった人はナルコレプシーの人だったのかもしれません。
情動脱力発作
怒りや恐怖、喜びや笑い、驚きなど突発的な感情がきっかけとなり、意識を失うまではないものの、突然の筋力低下に襲われることがあります。この発作は、情動脱力発作と呼ばれ、いきなりがっくり腰が抜けて立てなくなったり、持っているものを落としたり、あるいは地面に倒れたりすることもあります。
見た目の変化も顕著で、顎が垂れ下がり、顔の筋肉のひきつり、目は閉じてうなずくように頭が動きます。視野がかすみ、話し方が不明瞭になることも。
この症状は、普段レム睡眠時にみられる症状とよく似ています。ナルコレプシーの患者5人に1人に見られる症状で、重大な問題を引き起こすリスクが指摘されています。
睡眠麻痺
入眠の前後や、起床直後に体を動かそうとしても動かない現象を睡眠麻痺と呼びます。俗に言う金縛りのことです。
頭は完全に覚醒しているのにも関わらず、体が自由に動かせない恐怖心は、焦りを呼びます。体を動かすことが出来たときの安堵感は中々のものです。
睡眠麻痺はナルコレプシーの患者4人に1人の割合で見られます。日中に襲われる睡眠麻痺は、周りの人に触ってもらうことで、麻痺から逃れることもできます。
幻覚
入眠時やまれに目覚める時に、実際には無い音や映像がはっきりと見えたり、聞こえたりすることがあります。このような鮮明な幻覚は、イメージがはっきりと残る夢にも似ていますが、実際にはもっと強烈とされています。
入眠幻覚はナルコレプシー患者の3分の1の人に見られる症状です。健康な子供でもよく見られる現象で、まれに健康な大人でも発症します。
怖い夢を見て、泣きながら起きてくる子供は強い幻覚を見ているのかもしれません。
覚醒と夢による睡眠障害
睡眠時の覚醒と鮮明な夢によって、夜中にたびたび目が覚めてしまうことがあります。夜に質の良い睡眠が取れないことで、昼間の眠気が更に増す悪循環に陥るケースも。夜間の覚醒が慢性化すると、眠気によって日中の多くの時間に支障をきたしてしまう可能性があります。
合併症
ナルコレプシーの症状は、眠気によって引き起こされるその他の事象に大きな影響をもたらします。日常生活の集中力の低下は、怪我のリスクを高め、交通事故に遭遇する可能性も高くなります。
ストレスを溜め込むきっかけにもなり、仕事においては生産性とモチベーションの低下も懸念材料です。周りの人々からの理解が得られないと、やがて人を遠ざけるようになり、抑うつ状態に陥ることもしばしばです。
ナルコレプシーの治療方法
ナルコレプシーはとても厄介な疾患ですが、これといって特別な治療方法が確立されていません。
治療方法について、以下2点を紹介します。
- 1. 一般的な不眠対策
- 2. 薬物で覚醒状態を維持する
一般的な不眠対策
ナルコレプシーについて、現状では根治的な治療法はありません。対策方法は、一般的な不眠症と同じです。
夜の十分な睡眠を確保するよう心がけ、日中には主に午後に30分程度の仮眠を取るようにします。軽度のナルコレプシーであればこの程度の対策でも効果的です。
不眠症の対策と同じく、寝酒や寝る前の喫煙を控え、リラックスできる空間創りがポイントとなります。まずは、自分でできることから取り組みを進めると良いでしょう。
薬物で覚醒状態を維持する
日中の眠気があまりにひどい場合は、覚醒状態を維持する薬を使って眠気を抑えます。薬物治療には医師の指導が必要です。
情動脱力発作を伴う睡眠発作が起きる人は、別途特別な薬を投与します。いずれの薬もある程度の副作用が起きることを念頭においた上で服用を行います。
ナルコレプシーを要因とする生活への支障
ナルコレプシーが引き起こす生活への支障は、眠りが起因となります。具体的にはどのような支障が起きるのか、以下5つの項目にて、詳細を説明します。
- 1. 数ヶ月にわたる日中の居眠り
- 2. 怠け者と見なされる
- 3. 病気の自覚が持ちにくい
- 4. 退職や転職まで追い込まれるケースも
- 5. 重大な事故を引き起こす可能性
数ヶ月にわたる日中の居眠り
ナルコレプシーの主な症状は、日中の眠気です。日本語では居眠り病と呼ばれ、睡眠障害として認識されています。日中の眠気は健全な人でも起こりえますが、ナルコレプシーの場合、睡眠不足や空腹でもおかまいなしに眠気に襲われます。
1日に何度も強烈な眠気に襲われ、その症状は最低でも3ヶ月は続くといわれています。
怠け者と見なされる
健全な人でも、電車で座っている時や、退屈な授業、聞いているだけの会議など、眠くなる状況はよく起こります。健全な人と同じ感覚で見られてしまうと、怠け者のレッテルを貼られてしまうでしょう。ナルコレプシーの場合、試験中や商談中、車の運転中にも発症するため、より高いリスクを被ることになるのです。
自分で病気を正しく理解していれば弁解の余地もありますが、そうでない場合、たびたび自分を追い込むことになるかもしれません。異常な眠気が頻発する場合、早めに医療機関での診察を検討する必要があります。
病気の自覚が持ちにくい
自分でナルコレプシーの患者だということに気づかない人も多く存在します。
日常的な眠さが継続するため、本人すら眠いという自覚をもたなくなります。眠さに慣れてきて眠い病気という意識が次第になくなっていきます。そうなると、診療など考えなくなり慢性的な疾患として定着してしまう危険性も孕んでいるのです。
ナルコレプシーは、急に強烈な眠気に襲われ、他のことが手につかなくなることに本来の怖さがあります。
自覚がないまま日常生活を送ると、大きな事故に遭遇してしまうかもしれません。
退職や転職まで追い込まれるケースも
学生時代であれば、日中に眠りつつもなんとか進級し、学業の過程をクリアできるかもしれません。しかし、社会にでると働いて給料をもらう側になるため、病気の理解がなければ多めに見てもらう、ということは無くなるでしょう。
例えば、お客さまとの商談中に寝てしまったり、移動中に事故を起こしてしまったり、ということがあると、厳しく叱責され、最悪の場合、配置転換や退職に追い込まれることも考えられます。
たびたび睡眠がきっかけでトラブルを起こしていれば、信用は得られず、社会で活躍することが難しくなるでしょう。
重大な事故を引き起こす可能性
突然意識を失うような眠気に襲われ、脱力を伴うケースもあるナルコレプシーは、日常生活に甚大な柄鏡を及ぼす可能性があります。
もっとも考えられるケースは、交通事故です。車やバイク、自転車など乗り物の運転はもとより、歩行者としても、事故にあうリスクは高まります。
階段から落ちる、電車と接触するなど、想定されるリスクは思いの外多めです。ナルコレプシーの症状が重い時は、できるだけ外出を控えたほうが良いでしょう。もしくは、薬物にて症状を緩和する方法もあります。
ナルコレプシーを許容しながら生活するには
現状、ナルコレプシーは完治が難しい病気とされています。症状を許容しながら生活を送ることが重要です。ナルコレプシーの症状とともに生活するためのポイントを以下2つの項目にて、説明します。
- 1. 社会的サポートを検討する
- 2. 自分のペースでできる仕事を探す
社会的サポートを検討する
最近になって、アメリカなどを中心に、患者の社会的な立場や生活面の悩みに関する実態調査が行われるようになりました。ナルコレプシーに関する研究も徐々に進みつつあります。
ナルコレプシーの研究をテーマとしている医師の少なさも今後の課題です。国内では、ナルコレプシーの患者同士の集いである、なるこ会が昭和42年に発足しています。患者同士の情報交換の場として、うまく機能しています。
ナルコレプシーを自覚したら、まずはなるこ会の詳細を確認してみてはいかがでしょうか。色々な情報を得ることができるでしょう。
自分のペースでできる仕事を探す
ナルコレプシーの症状が出ても、支障をきたさずにクリアできる仕事を検討するのも有効な選択肢です。一番良いのは、自分で時間をコントロールできる自営業です。眠くなったら適宜仮眠を取りつつ仕事を進めることができます。
とはいえ、誰でも急に自営業に転身できるわけではありません。一般的な仕事では、高所作業や運転を伴う仕事を避けつつ、比較的時間が自由になる仕事を選ぶのが良いでしょう。
周りの人の理解を得られないと、怠け者のレッテルを貼られてしまう可能性があります。仕事仲間からの理解を得るためにも、あらかじめ持病がある事を伝えることは重要です。
まとめ
ナルコレプシーは、日中に強力な眠気に襲われ、所構わず寝てしまう病気です。一般的に、病気の認知が広まっておらず、単なる怠け者と見られてしまうこともあります。
眠気の他に、強い脱力に襲われることもあり、日中の生活に大きなリスクを抱えることにもなります。
現状、根治のための特別な治療法はありません。夜によく寝て、昼間の眠気がひどい場合、薬で眠気を分散させるなど、応急的な措置のみで対応します。
少しずつではありますが、ナルコレプシーの研究はスタートしています。
よくある質問
Q.ナルコレプシーの治療方法は?
A.現在特別な治療方法は確立されておらず、一般的な不眠症と同じ治療を行います。
Q.ナルコレプシーの患者が気をつけることは?
A.車の運転など危険が伴う行為を控えるようにしましょう。